Together Through Life

 

沈黙

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映画を観にいく前に本棚から遠藤周作『沈黙』を引っ張り出し、読む。前に読んだのは10代の頃だから、30年近く振りの再読。
キリスト教信者にはもちろん、そうではないすべての読者に人間の根源的な部分を問う、やはり傑作だった。信じること、疑うこと、そして救われること。人は誰もが己の持つ弱さのために苦悩し、それを克服するためにまた懊悩する。ロドリゴが踏絵に足をかけようとする瞬間には、やっぱり30年前と同じように涙が溢れ出た。
テーマ的にはもちろん、小説的技術としての素晴らしさには今回の再読で初めて気付いたかも知れない。擬似歴史資料的な「まえがき」と最後の「切支丹屋敷役人日記」ではその「資料」的な淡泊さで作品にリアリティを与え、まえがきの後に置かれた「セバスチャン・ロドリゴの書簡」で読者をロドリゴの視点に引きずり込み、その後の三人称で今度は読者を少し引かせて俯瞰的にロドリゴを、物語を観させる。このような変幻自在の距離感の操作は、著者に類稀な小説的技術の力量があってこそだろう。
さて、この素晴らしい傑作小説がスコセッシによってどんな映画になっているか。いつ観にいこうかな。

 

シービスケット

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父が貸してくれたローラ・ヒレンブランド著、奥田祐士訳『シービスケット-あるアメリカ競走馬の伝説』を読んだ。1930年代アメリカに実在した伝説の名馬シービスケットと、彼に人生を賭けた人々の物語。確か映画化もされているけれど、そっちは観ていない。
ただ本作を読めば、映画の方は観なくても良いかも知れない。それほどまでによく出来たノンフィクションで、余計な感動を煽ることなく、淡々と綴られる彼らの生涯からは自然にじわりと感慨が巻き起こる。
それにしてもシービスケットだけではなく、馬主、調教師、騎手たちを含めたその波乱万丈の人生には驚く。まさに事実は小説より痛快なり。
最後に彼らの余生が描かれているのも良かった。波乱万丈を超え、華々しい瞬間を迎えたあとも、人も、馬も、その後も人生は続くのだ。

 

読んじゃいなよ!

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高橋源一郎編『読んじゃいなよ!-明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ』を読んだ。
明治学院大学の高橋源一郎ゼミ生が指定された岩波新書を読み込み、その著者を招いての質疑応答の様子が描かれる。選ばれたのは鷲田清一『哲学の使い方』、長谷部恭男『憲法とは何か』、伊藤比呂美『女の一生』。それぞれ「哲学教室」、「憲法教室」、「人生相談教室」となる。
なるほど、著書を深く読み込んだだけあって、それぞれの対話は真剣味を帯び、先生たちからは深い語りが得られる。とりわけ長谷部恭男の憲法観には唸った。
それぞれの対話の合間に学生たちによる岩波新書と自分の短い文章が差し込まれているのだけれど、本の感想というよりも自身の人生や生活を顧みるものになっていて興味深かった。まだまだ若い彼らだからこそ、持ち得る悩み。本を読むことによってそれはさらなる袋小路に入ることになるかも知れないけれど、自身の内面を見つめることになるかも知れない。それは読んでのお楽しみという意味でも、とりあえず「読んじゃいなよ!」というわけだ。
僕ももっと若いころからたくさん本を読んでおけば良かった…。

 

三島由紀夫レター教室

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三島由紀夫『三島由紀夫レター教室』を。個人的にはこの間読んだ『命売ります』に続く、三島の通俗小説(って、あれ読んだの1月なの?もう1年近く前なの?!)。
腹に一物もニモツも持つ個性的な5人の登場人物。彼らがそれぞれにやり取りする手紙だけで構成された異色作。ただこれが小説としてとても面白い。
手紙の文面のみなので当たり前だけど、情景も心象も何も描写がない。そのことが絶妙な隙間を担っていて、さらには手紙のやり取りだけなのに思わぬ展開に進んでいくもんだから、読みながら登場人物の裏、裏の裏、手紙と手紙の間に起きた出来事なんかを想像しやすく、それが小説として含みを持たせた面白さに繋がっている。
いやはやまだまだ三島の未読作はたくさんあるし、今後も時々読んでいこう。

 

犯罪小説集

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吉田修一『犯罪小説集』読了。
実際に起こった5つの事件に着想を得て描かれる5編の小説集。
どれもこれもディテールの描写が凄まじく、やはりこの著者の筆力に今回も圧倒される。確かに長編ほどの迫力はないが、日常生活のすぐ隣にあり、ちょっとしたことで転落してしまう闇のあっけなさと恐ろしさが迫る。
おそらく意図的に著者は犯罪者となる人間の心理を描かない。その周りの心を描くことによって、彼らが追い詰められていく様(それはつまり「普通の」僕たちが彼らを追い詰めているということだ)が恐ろしく読み手にのしかかる。
例外的に『百家楽餓鬼』のみ犯罪に手を染めていく主人公の心の闇を描くが、これは他の4編が殺人を描いているのに対し、『百家楽餓鬼』のみ殺人ではなくギャンブル依存から会社のお金を不正に使いこんでしまう過程を危うく描写するためだと思われる。
最後に収められている『白球白蛇伝』のラストが、切なすぎて哀しすぎて、ある意味において小説家の苦渋の決断に、涙が止まらなかった。

 

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