Together Through Life

 

ウィステリアと三人の女たち



川上未映子『ウィステリアと三人の女たち』を読んだ。それぞれ女性を主人公とした3つの短編と1つの中編。
相変わらず実際に見た映像を隅々まで瑞々しく描き切り、流れるような舞台の切り替えやハッとするような表現での心象風景の描写は見事。
繊細に描かれる女性の闇、微かな光。壊されるときの音。それらを感じ取る登場人物の女性たちはとても弱く、それでもなお生きる。
川上未映子はやはりフェミニズムの作家で、本作はどれもその匂いが色濃く際立つ。女性ゆえの不自由さ、その原因ともなる男性との齟齬。そういった匂いがむせ返るようで、男性である僕にとってはそこが少し気になる、というかやはり心底から共感できるものではないのだろうなと思う。

 

忘れられたワルツ

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神様2011』、『恋する原発』に引き続き、震災を経たあとの小説、絲山秋子『忘れられたワルツ』を。
震災や原発に関することは表には描かれず、ただその前後、日本のどこかで暮らす人々、変わってしまった世界を不穏に、鮮やかに描き出す短編集。
いつも通り過ごす日常が突然変わる。戻れない人、以前とは確かに違う世界。「ふつう」なんて、探したってもはやどこにもないのだ。でも、確かに感じ取れる微かな明かり。
やはり文学は震災を経てそれぞれの形で「その後」を掬い取る。僕たちは「その後」の今をまだ生きていかなければならないんだから、こういった小説家の仕事は必要なのだと思う。

 

恋する原発

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高橋源一郎『恋する原発』を。
なんというか、なかなか感想を言うのが難しい小説なんだけど、著者としてはあの震災を文学で、言葉で語るには、本人が言っているように「ひどい小説」として描かなければならなかった。その上で、あたかもAVのモザイクのように挿入される「震災文学論」。これがとても素晴らしいのだけれど、ということは被災者支援のためのチャリティAVを作ろうとするとことん不謹慎な本編(?)はやはり必然なのだろう。
だって高橋源一郎は分かっているのだ。本著にもしっかりとこう書いてある。
「どんなに馬鹿馬鹿しい作品を作っても現実の馬鹿馬鹿しさには到底かなわない。こういうのを負け戦っていうんじゃないか?」
被災者に対して文学ができることはある。あるけれど、やはり安全圏から言葉で何かを物語ることはやはり無力だ。だからその試み自体、最初から「負け戦」なのではないか。だから敢えて「震災文学論」はモザイクとして書かれたのではないか。
あの震災で被災した人々の悲劇、それ以外の人たちの喜劇っぷり。もはやそれは暴かれているのに、相変わらず変わらないこの国。それを皮肉たっぷりに描いた文学。なのに、やっぱり無力なのだ。どうすればいい?

 

水底の女

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レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳『水底の女』読了。フィリップ・マーロウシリーズの4作目で、村上春樹はこれで7作すべてのマーロウシリーズの長編を翻訳したことになる。
訳者があとがきでも述べているように、他のマーロウものとは違った趣があるのはやはり本格ミステリーの香りがするからだろう。ただ訳者とは違い僕はそれが逆に新鮮で、面白く読めた。いつも通りクールでウィットに富んだマーロウの佇まい、彼を取り巻く(あるいは巻き込む)魅力溢れる登場人物たち、彼らとマーロウとの軽妙で洒落た台詞のやり取り。
この世界に浸れるのがこれでお終いだなんて寂しいので、たぶん、きっとまた何年かすれば読み返すだろうな。その時は作品が発表された順に読んでみよう。

 

神様 2011

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いつか、この時期に読もうと思って買ってあった川上弘美『神様 2011』を読んだ。
1993年に発表されたデビュー作の短編『神様』と、「あのこと」が起こった直後にあらためて書き直された『神様 2011』の2編のみが入った短い作品。しかし、内容は重い。
『神様』はくまと散歩に出かけるという突飛な内容で、その中には自然と人間の対峙が批評的に織り込まれながらも、穏やかなで温かな日常が描かれている素敵な作品だった。
ただ、「あのこと」が起き、その日常は穏やかではなくなった。
日常に登場するガイガーカウンター、防護服、放射線量という言葉。日常での同じ行動(くまとの散歩)が、これらの言葉によってこれほどまでに汚染されてしまうとは。
「あのこと」は起きてしまった、いや、僕たちが起こしてしまった。くまがくれた魚ももはや食べられない。日常に入りこんできた、「あのこと」以前であれば非日常だった言葉から目を背けることなど出来ない。
今年も「あのこと」が起きた日まで、あと3日だ。

 

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