Together Through Life

 

僕は帰ってきました



たった1頭にだけ許されたウイニングランのために、芝コースのバックストレッチまで流した後、武豊とキズナはなかなか戻ってこなかった。14万大観衆がひしめくスタンドを眺め、千両役者の心を駆け巡っていたものは何だったんだろう。
それまで当たり前のように年間100勝以上を挙げ、200勝も3度達成した天才が、2010年の落馬事故を契機に成績は下降線を辿る。2011年64勝、2012年56勝。
成績を挙げないと良い馬は回ってこない。良い馬が回ってこないとさらに成績が下がるという負のスパイラルに落ち込み、地方出身や外国人ジョッキーの台頭、大手牧場、オーナーなどとの関係の変化もあり、もはや武豊はかつての武豊ではなくなっていた。少なくとも彼を巡る環境は大きく変化し、ファンの視線もかつてのそれと同じではなくなっていた。
けれど、「武豊」は「武豊」なのだと、強く信じていたのは、他でもない武豊自身だった。
だから、8年振りにダービージョッキーになっても、成績下降気味の今、ダービーという大舞台で勝っても、彼はむせび泣いたりしないのだ。ただ笑って、喜んで、「僕は、帰ってきました!」と大きな声で宣言できるのだ。普通は限界を感じたり引き際を意識したりしてもおかしくはない状況に追い込まれようとも、「武豊」は「武豊」を疑ったことなどないのだから。
ただただ自身の置かれた状況に立ち向かうために闘志を奮い立たせ、だから最近のインタビューでは彼らしからぬ過激な発言も目立っていた。「ガキどもに負けてたまるか」、「俺を誰だと思ってるんだ」…。
痛む腰に苛立ちながら動かない馬を追い、それでも泣かず腐らずにトレーニングを続け、「いつか見てろ」と帰るべき場所に向かっていた3年間が、あのバックストレッチで去来していたのだろうか。
2位の2勝を大きく引き離すダービー5勝という空前絶後の記録とともに「武豊」が本当に帰ったきたのなら、これからももっとダービーを勝てる。そして僕らはまだ信じたい。だって、本人が一番「武豊」を信じているのだから。
Comments

Body

« »

06 2017
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
profile

telltell72

Author:telltell72
welcome!

archives
tweets
検索フォーム
counter