Together Through Life

 

もういちど生まれる

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この間読んだ星野智幸『焔』が結構重かったので、スラスラ軽く読めるものをと思って朝井リョウ『もういちど生まれる』を。でも、読んで思い出した。この人の小説はスラスラと読めるけれども決して軽くはなかったんだった。
5編の連作短編集で、それぞれに主人公は異なるけれど、それぞれがどこかで繋がっている。大学生たちの苦悩。
彼らはもちろんまだ若く、瑞々しい。でも、自分たちの瑞々しさを理解していなかった子供時代とも違い、また瑞々しさを失ってしまった大人とも違い、その過渡期にあるからこそ彼らは不安を抱え、苦悩する。彼らの瑞々しさはすでに失っていく過程に入っていて、それを自覚もしている。だから、まだ残る瑞々しさの裏側には黒く、重いものが燻るのだ。
相変わらず比喩も巧みで、若者の心の葛藤、裏側の黒さを書かせたらとても上手い。ただこういう群像劇としては『桐島、部活やめるってよ』や『何者』ほどのパンチはないかな。

 

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星野智幸『焔』を読んだ。
焔を囲む8人が語る、それぞれの物語。危ういバランスながらも通常のように見える景色は、流れるように突然一変する。その転換の描き方が見事。
今日本に蔓延る病巣(ネトウヨ、ヘイトスピーチ、二項対立のみの図式…)はすべて物語の負の側面がもたらしたものだと認識しつつ、著者はそれに物語で立ち向かう。物語の解放の力を信じている。だから最後には希望の光が差す。
最後に希望が置かれているとはいえ、(日本の病を描き出す著者の筆力が巧過ぎて強過ぎるから)なかなかにダークで重い作品だった。次は少し軽めの本を読もうかな。

 

国のない男

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カート・ヴォネガット著、金原瑞人訳『国のない男』読了。2004年刊行、ヴォネガットの遺作となったエッセイ集。
人を、この世界を愛憎渦巻く視点から、独特の知的なウィットとユーモアで物語を包み込んできたヴォネガット。このエッセイ集でもその視線は変わらず、辛辣で適切な(特にアメリカへの)毒と、それでも人が好きだという隠しきれない思いが、相変わらずのウィットとユーモアに包み込まれている。
ここでは時の大統領ブッシュへの辛辣な批判が時折顔を見せるけれど、それはそのまま現代にも当てはまる。地球が自浄作用のために人類を滅ぼしつつあるという主張も、さらにもっと今の方に当てはまる。
後世に残る、ヴォネガットの言葉。でも、後世になってもまだこれらの言葉が当てはまってはいけない。21世紀初めの作家の言葉として僕たちは彼の言葉を胸に刻み、彼の人への、この世界への愛と憎しみを心から笑って読める世界を作っていかなければならない。

 

僕の名はアラム

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ウィリアム・サローヤンの名著『僕の名はアラム』を柴田元幸の新訳で読む。『我が名はアラム』で知られる旧訳は未読。
20世紀前半のカリフォルニア州。アルメニア移民の大家族を、アラム少年の目線で描かれる短編集。
基本的にどの短編もおかしな親戚の伯父さん/叔父さんが登場し、おかしな言動でのどかにくすりと笑わせてくれる。全編通して牧歌的というか、どこか非現実的で不思議な世界観で貫かれ、ただやはりトルコによるアルメリア弾圧から逃れてきた移民の一族なのだという通奏低音も響き、独特の魅力を放っている。
本当におかしなおかしな不思議な物語集なのだけれど、世界観と雰囲気が一貫しているからかこの本の世界にいったんハマるとなかなか抜け出しにくい。なんだか久しぶりに(初めて?)味わう読書体験だったなぁ。

 

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

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『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』を読んだ。
ご存じの通り若かりし頃から翻訳家としても活躍してきた著者の、翻訳のほとんど全仕事(題名そのまま)。
これまで(昨年初めまで)の翻訳した全作品を本人のコメント入りで振り返り、アドバイザーとして全幅の信頼を置く柴田元幸との対談などなど。やはり翻訳を深く愛し楽しむ2人の、「翻訳あるある」を語り合う対談が面白い。
僕もフィッツジェラルド、サリンジャー、カーヴァー、チャンドラーと彼の翻訳に親しみ、彼の翻訳のお陰で楽しめる世界が増えた。カポーティは『ティファニーで朝食を』しか読んでいないので、これから他の作品も村上春樹訳で読んでみよう。

 

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